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新しい靴を買わなくちゃ

Netflixで久しぶりに心躍る映画を見てしまった。もう何度繰り返して観たことか。
2012年10月に公開された映画「新しい靴を買わなくちゃ」。

監督は恋愛ドラマといえばこの人といっても過言ではないかも、という北川悦吏子。プロデューサーは岩井俊二、音楽は坂本龍一、そして主演は中山美穂、相手役は向井理、妹役に桐谷美玲、その恋人役は綾野剛という、これ以上あるかっていうくらい豪華な顔ぶれの方々によって作られた大人のためのラブストーリーである。

実は私、公開当時、あまりにもできすぎたスタッフ陣と豪華キャストなもので、こういった映画でよくあるパターンで話題ばかりが先行し、蓋を開けるとたいして面白くないんじゃないかなぁなんて思って観るのをなんとなく敬遠してしまったのです。連休中どこに行くあてもないし、なんとな~く旅に出た気分になりたいな、と思ってたまたまクリックした映画がこれだったのだけど、これがまた直球でハマってしまったというわけなのです。

舞台はパリ。たまたま妹の付き合いでパリを訪れたカメラマン、セン(向井理)が、ひょんなことからパリ在住の日本人のフリーペーパー編集者アオイ(中山美穂)と出会い過ごす3日間の物語である。

こう書くといかにもありがちな恋愛映画を想像しますよね?まぁ観かたによってはそうかもしれない。でもこちらが期待するような展開とはちょっと違った角度で進むあたりが、ややもするとマンネリ化しかねない恋愛映画の危険水域をギリギリで脱していると言わせてください。

中山美穂演ずるアオイが本当に自然で、まるで彼女の地そのものではないかと錯覚してしまうくらい役と一体化しているように見えます。というかその他の出演者も演技力が達者な人ばかりなせいか、全体的にまるでドキュメンタリーのようにも見えなくもないです。カメラワークのせいもあるのか?光の使い方もいいし、また何よりも音楽がいい。テーマのように何度も流れてくるモーツアルトのピアノ曲が全体に落ち着きを与えてくれています。ここらへんさすが坂本龍一先生って感じです。



最初の出会いが、たまたま落ちてたセンのパスポートをアオイが踏んでしまい、アオイの靴のヒールが壊れてセンのパスポートも破れてしまう、っていう展開でいささか強引のような気もしないでもないけど、そこはまぁ恋愛映画だし、男女の出会いに偶然はつきものですからね。文句を言わず片目をつぶって見ましょうね。
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出会いの後、さらにアオイとセンがどんな風につながっていくのか、そこらへんのストーリー展開はすごく考え抜かれたように思う。何しろ10代、20代のピチピチギャル(死語!)ではなく、異国に20年以上暮らしている地に足をつけた年齢の女性が主人公なわけだから、若い素敵な男性と出会ったところでそう簡単に恋に落ちるわけにはいかないのです。

ストーリー中のキーワードのひとつ、センが滞在するホテル名が小道具としてうまく使われています。最初の出会いから、次の出会いにつながるのもそのホテル名。さらにアオイの家に滞在することになってしまう原因もそれ。こんだけ特定のホテル名を劇中で聞いちゃうと無性に泊まってみたくなりますね。

アオイが妙に天然ボケっていうか、そのわりにしっかりしているところもあり、そこは天然なの?それとも計算?っていうわけのわからなさも大人の女の強みなのかも。酔っ払いながらも全部を忘れているわけでないところとか、翌日はきちんと朝ごはんを作って「おはよう」なんて爽やかに言えちゃうあたりはやはり大人なのです。

センがとにかくかわいい。向井理がこんなにかわいく見えるなんて、役どころ?それともアオイのせい?正直いってそんなに好みのタイプではなかったのに(どちらかというと綾野剛の方が好きかも)、なんなんだこのかわいさは。

忘れた頃に登場してくる妹のスズメと恋人のカンゴのシーンもいいですよ。綾野剛はまぁ順当というか思った通りですが、今見直してみても桐谷美玲ってかわいいだけじゃないのね、演技に見えない演技がすごい。お馬鹿そうに見えてそうじゃない感じがまたいいんですよ。

パリ・オールロケということで、ところどころ出てくる街中のシーンがパリ好きの心をくすぐりますよ。アオイの部屋でのアオイとセンの会話がストーリー展開の中心になっているせいか、たまにでてくる屋外シーンが新鮮に映ります。劇中2回くらい登場する橋がいいですね。遠くに見えるのはオルセー美術館かな?
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アオイの住まいがまた素敵なの。白が基調の部屋にセンスよく色が差し込まれているのがとてもパリっぽくてうっとりする。さらに地下にアトリエがあってドレス・デザイナーのフランス人の友人に貸してるなんてまるで映画みたいじゃないですか。

皆でイースターのお祝いのためのキッシュを作るシーンも好きだな。お花を買いに行くアオイの様子もなんかいいんですよね。ちょっとした日常の幸せって感じのところが。

人は何かしら抱えて生きているものだけど、アオイも例外ではなく。実は大きな傷を抱えてパリで生きているのですが、そこらへん、中山美穂当人の状況とちょっとかぶっているようでいろいろ考えてしまいましたが。人生いろいろですからね。
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アオイとセンは3日間過ごすものの、結局恋人同士となったのかどうかはわかりません。センは日本に帰国し、アオイはパリの日常に戻る。ある日送られてきた小包に添えられた手紙がヒントなのかどうかもぼんやりしています。

ただ小包に入っていた靴はアオイにぴったりでした。新しい靴は抱えているものが大きくて動けないでいるアオイに羽を与えてくれたかもしれません。そんな明るい予感が最後に残りました。

王道のラブストーリーといえばそうかもしれない、でもいいじゃん、空想の世界だけでも夢みたいじゃん。女性の日常は戦いなのです。特に30代後半から40代の女性は若くもない、けどあきらめるにはまだ若くて悩み苦しむことも多いのです。そんな日常からふっと逃避できる映画といってもいいでしょう。私にとって出会えてよかった映画のひとつとなりました。
by zizo_cafe | 2016-05-09 22:33 | cinema